『 この風にのせて 』
ザザザ −−−−− ・・・・! ゴー −−−− ・・・・ !
いつもは穏やかな風がいきなり突き刺さってきた。
「 きゃ・・・・ うわ〜〜 ヤダ! なに これ〜ェ〜〜 」
フランソワーズは坂の上の我が家の前で立ち往生、 悲鳴をあげている。
「 いや〜〜ん ・・・・ コートとスカートが・・・ きゃあ〜 」
両手に下げていたスーパーのレジ袋や大きなレッスン・バッグを放り出し、
必死で気紛れ風と闘っているが ― どうも分が悪いようだ。
「 もう〜〜〜 ・・・ いいわ、もうウチの前だし。 誰もいないはずだもんね。 」
よぉし・・・ 彼女は意気込んで長めのコートもフレア・スカートもたくし上げしっかり両脚の間に挟んだ。
「 これで ・・・ う〜歩き難いけど いそげ! 」
妙な恰好で トタトタ玄関まで行き着きドア・ノブに手を伸ば ―
「 お帰りっ! フランソワーズ ・・・ ひゃあ〜 」
一瞬の差でドアが開き ジョーが笑顔満開で立っていた。
「 ジ ジョ − ・・・・ きゃあ〜〜〜 !! 見ないで! あっちいってェ〜〜〜 」
「 ご ごめん〜〜〜 み 見てない、見てないよぉ〜〜〜
フランの脚なんか見てないってばあ〜〜 」
ジョーは喚きつつ ウチの奥に駆け込んでいった。
「 ・・・っとに も〜〜〜 ・・・・ きゃ・・・ドア、閉めなくちゃ・・・ 」
ぶわ・・・っとまたもや吹き込んできた突風に フランソワーズは慌てて玄関ドアを閉めた。
「 そうか〜 ・・・ うん、その季節だもんなあ〜 」
お茶タイムとなり、ジョーはやっとのんびりとソファに座ることができた。
「 すごい風だったのよ。 スカート・・・じゃなくて 服がこうぶわ〜っとなってね、
歩けないくらい・・・ 時期外れの台風でも来ているのかしら。 」
「 台風? いや そうじゃなくてね・・・ わあ ・・・ くんくん・・・いい匂いだなあ・・・」
「 ふふふ ジョーの好きないちごのタルトよ。 いちごは庭の温室製 」
フランソワーズが大きなトレイをロー・テーブルに置いた。
「 庭のいちご? ・・・ すっごい・・・! 自分ちの庭で果物や野菜が採れるっていいよね!
僕さ、ず〜〜〜っと憧れてたんだ♪ 」
「 でもねえ・・・売っているのみたいに大きくもないし、甘くないかも よ? 」
「 いいよ〜 ってかこんなに真っ赤なんだもん、きっと甘いよ うん。
あ ほら ぼくがやるよ。 重いだろ。 」
ジョーは彼女から陶器のポットを受け取り慎重な手つきでカップに注ぎ始めた。
「 あ ありがとう、 ジョー。 じゃ・・・ いま博士をお呼びしてくるわね。 」
「 うん 頼む。 博士は・・・っと そうそういちごジャムいりのロシアン・ティだったっけ・・・ 」
ガタガタガタ −−−−−
博士の書斎へとゆく途中、廊下の窓が音を立てていた。
「 まあ・・・ まただわ。 この地域は冬でも暖かい温暖は気候だって聞いているけど。
やっぱり台風なのかしら・・・ 博士? お茶が入りましたよ〜 」
ノックの音から しばらくしてゆっくりとドアが開き博士のボサボサ頭が現れた。
「 ・・・ ああ? お茶 か・・・ うん・・・今ゆく。 」
博士はそのまままた部屋に引き返そうとしたので フランソワーズはあわてて手をひっぱった。
「 博士〜〜 ほら・・・ このままご一緒しましょう? お茶が冷めますわ。 」
「 あ ああ ・・・ すまんなあ ありがとうよ 」
「 いいえ とんでもない。 あら、お足元にお気をつけになって・・・ 」
「 うん・・? あ ああ ・・・ 」
「 ねえ博士。 この国ではこんな季節に台風でも来るのですか? 」
「 うん? 台風? いいや。 確かにこの時期に台風が発生することはあるが
皆 この地方にはこない。 ほとんど大陸の方向に直進してゆくぞ。 」
「 まあ ・・・ それならこの風はなんなんですか? 」
窓から空を指した彼女につられ、博士も上方に視線を向けた。
「 風? ・・・ ほう、今日もいい天気じゃのう。 空が青い ・・・ 」
「 博士〜〜こんなに天気がいいのに ほら またすごい風 ・・・ 」
ガタン ・・・ ! ガタガタガタ −−− ・・・・
カシャーーーン ・・・・ 裏庭でなにかが飛んでいった・・・らしい
「 きゃ・・・ やっぱり台風です〜〜 」
「 いやいや。 この風はなあ・・・ この地方の冬に吹く独特な風なんじゃよ。 」
「 え・・・ 冬に? 」
「 ああ。 だいたいが関東地方でも中部や北部に多いらしい。
この辺りには まああまり吹くことはないな。 」
「 そうなんですか ・・・ そうですね、空は真っ青でお日さまはあんなにキラキラ・・・
あ! いっけない・・・ お茶の時間ですわ、博士。 」
「 はは ・・・ そうじゃったな。 これ以上待たせてはお茶が冷めるな。 」
「 今日はね、ロシアン・ティー ジャムのいちごはウチの温室製です。
今 ジョーが熱々を淹れていますわ。 」
「 ほう それは楽しみじゃな。 ほい ・・・ 」
「 あら うふふふ 」
博士は気軽に腕を貸し、フランソワーズも微笑んでそのエスコートに身を委ねた。
「 ほう ・・・ これは美味い・・・! 」
「 ですよね〜 博士! ああ〜〜 いいなあ・・・ぼく、こういう生活に憧れてたんだ。
ウチの菜園も温室も、沢山収穫があって楽しいですよ。 」
「 ねえ ジョー。 この風 ・・・ いつもはこの辺りでは吹かないの? 」
「 風 ? あ〜 空っ風のことかあ 」
「 からっかぜ? 」
「 うん。 真冬のな、こんな日に吹く乾いた冷たい風のことをそう呼ぶんだよ。
海風ともちょっとちがうんだ。 」
「 そうねえ ・・・ カラカラに乾燥しているわね。 」
「 うん。 真冬の海風も冷たいけど ・・・ あれは湿気を含んでいるから少しは柔らかいよ。 」
「 ・・・ やわらかい? 風が ? 」
「 うん。 その なんていうかな・・・肌に柔らかい、というか・・・
けど、空っ風はキツイんだ、突き刺さるみたい。 」
「 ふうん・・・ そうね、海風ってそんな感じ。 いろいろな風があるのね。 」
「 そうじゃなあ・・・ほんに この地域は自然の豊かだな。 」
「 ここいらは関東地方でも格別に温暖なところなんだ。
空ッ風が吹くこともあまりないしね。 雪も滅多にふらないよ。 」
「 ふうん ・・・ 保養地 とか 別荘地 みたいな土地ね。
わたし、ますますこのお家が好きになるわ。 」
「 ぼくはますますきみのスウィーツが好きになる〜〜っと。 」
ジョーはタルトの最後の一片を幸せそうにほおばった。
「 あら。 スウィーツ だけ? 」
「 え? ・・・・ あ あの その え〜と・・・ 」
たちまち真っ赤になるジョーに博士もフランソワーズも遠慮なく笑った。
「 あら そういえばジョー。 今日は帰りが早かったわね? 休講だったの? 」
「 ・・・ あ うん。 今、 学年末試験期間だから 」
ジョーはある大学の工学部で機械工学科の聴講生として学んでいる。
自分自身の<構造>を きちんと理解したい ― ジョーのたっての希望に
博士も快く応援し、いろいろと便宜を計ってくれた。
「 え?! 試験? ちょっと〜〜 のんびりお茶なんか飲んでていいの?
ほら 後はわたしがやるから早く試験勉強しなさい! 」
「 え ・・・ いいよ〜 部屋に篭って勉強してもしょうがない。 」
「 ジョー。 どういうこと? 聴講生だって講義を受けているならちゃんと勉強して
真面目に試験を受けるべきじゃない? 勉強してもしょうがない、なんてそんないい加減なこと 」
「 あ ち ちがうんだ、違うんだよお〜 」
「 どう違うのよ。 なにが違うの。 」
「 だからさ 試験が さ。 テキスト持ち込み可、の論述形式なんだ。 」
「 ふうん ・・・ 機械工学科なのに面白いわね。 」
「 うん、 理論が正確に理解できなくちゃ なんにもできないぞってのが教授の十八番。 」
「 ふむふむ ・・・ それはなかなか賢明なお人の講義じゃな。 」
「 そうなの。 でもやっぱり復習くらいしておいた方がいいのじゃない? 」
「 は〜い それじゃこのタルトを食べたら べんきょうしま〜す。 」
「 宜しい。 ふふふ・・・ あとで夜食、作るから。 頑張ってね。 」
「 ありがとう♪ あ そういえばフラン きみは?
なにか舞台があるって言ってただろ。 」
「 ほう? そうなのかい、フランソワーズ。 」
美味しいタルトは皆あっという間に食べ、いまはお茶のいい香りがリビングに満ちている。
窓の外には相変わらず 冬の空っ風が吹きぬけているが ・・・ ここはほっこり温かい。
フランソワーズは 皆に紅茶のお変わりを注いだ。
「 ええ ・・・ 舞台、といっても小規模な勉強会 なんです。 」
「 ふむふむ ・・・ 舞台は数を踏んでゆくほど、価値があるかなあ。
それでお前は何を踊るのかい。 」
「 はい、 あのう ・・・ 『 レ・シルフィード 』 の ワルツ なんです。 」
「 れしるふぃーど ??? それ・・・題名なの? 」
「 空気の精、という意味じゃよ。 有名な古典作品でな、ショパンのノクターンの曲で踊るのさ。 」
「 博士 お詳しいのですね。 」
「 有名な作品じゃからな。 ワシも見たこともあるぞ。
ジョー お前 もうちょっと勉強しなさい、お前の大事なヒトの世界について、な。 」
「 え ・・・ え すすいません ・・・ はい。 勉強します! 」
「 ・・・ もう ジョーってば 」
ぼくの 大事なヒト ・・・・
大事なヒトって 頷いてくれた わ
赤くなって お互いにちら・・・っとみあって。 また赤くなって。
― やれやれ・・・ハタチも近い若者たちとは思えんな ・・・
博士は新聞の端から見て見ぬフリをして苦笑していた。
はっ はっ はっ ・・・・!
亜麻色の髪の乙女が 大荷物もなんのその、物凄い勢いで路を駆け抜けてゆく。
「 ・・・ ま 間に合わない〜〜 !! 」
彼女の必死の形相に 行き違う人たちはクス・・・っと笑って避けてくれる。
・・・ おやおや・・・ がんばれ〜 遅刻だよ・・・
ふふ・・・またバレエ・スタジオのダンサーさんかな。
お♪ 美人〜〜 ・・・しっかしすげ〜顔 ・・・
地元の人々は 毎朝血相を変えて疾走してゆく若者達を微笑で見送っているのだ。
「 はぁ はぁ はぁ ・・・・ あと・・・5分〜〜〜 ! 」
大通りをまがって二本奥の小路、その角にある建物へ ― ダッシュ・・・!
「 ああ〜〜〜 どうしてわたしには加速装置が搭載されていないの!?
・・・ ジョー だけ なんて ず ずるい 〜〜〜 ! 」
ぶつぶつ言いつつ かの乙女はアイアン・レースの門を飛び越し ・・・ はしなかったが
勢いよく開け 飛び込んでいった。
なんだって遅刻厳禁 なのよぉ〜〜〜〜 !!!
ばたばたばた・・・・! バンッ !!
「 お おは よう ございます〜〜〜! 」
「 あ フランソワーズ おはよ〜 」
「 え? あら もうそんな時間? 急がなくちゃ・・・ 」
「 あれ〜〜 トイレ行く時間 あるかな〜 」
更衣室にいた仲間達は 彼女の顔をみると一斉に急ぎだした。
― フランソワーズが来ると もうすぐ時間。
いつもギリギリに登場する彼女を仲間は一種の目印にしている ・・・らしい。
そんな仲間たちなどまるで目に入らず ― 当のご本人は着替えに必死だ。
「 あ〜〜〜〜ん ・・・ ゴムとピンは・・・ 」
「 ― フランソワーズ? はやくしなよ〜 ピアニストさんも来たよ・・ 」
「 みちよ! う うん・・・! もうすぐ! ポアント ポアント〜〜 」
「 ほらほら 早く! 」
「 う うん ・・・ 」
― ばたばたばた・・・ 足音が去ってほんの数分で ピアノの音が軽やかに響いてきた。
どうやら彼女は間に合った もようだ。 朝のクラス・レッスンが始まった。
クラスが終わり 更衣室では自然に着替えるのもゆっくりとなり・・・
フランソワーズはすみっこで仲良しのみちよとおしゃべりすることが多い。
その日も 二人はぼしょぼしょ喋っていた。
「 え ・・・ 希望が出せるの? 」
「 うん。 勉強会だけだけどね。 一応考慮してもらえるよ。 」
「 そうなの〜 わたしでも出られるのかしら ・・・ 」
「 全員義務。 当然よ〜〜フランソワーズ〜 」
「 まあ ・・・嬉しいけど ・・・ 怖い・・・!
ねえねえみちよは何を希望するの? 」
「 う〜ん 考え中。 アレグロ系の元気なのが好きなんだけどなあ。 」
「 ふうん ・・・ わたしはどうしようかしら。 」
「 フランなら堂お姫を希望できるでショ。 眠り〜 とか くるみ とか。
いっそオデットとか どう? あ パキータもいいかも・・・ 」
「 ええ〜〜 そんなの無理無理〜〜
わたし ・・・ そうね・・・ レ・シル ( 『 レ・シルフィード 』 ) とかいいかも 」
「 え・・・ 随分大人しいの、選ぶんだね〜 」
「 そう? わたし、好きなのよ。 でも・・・・オッケーがでるかしら。 」
「 大丈夫よ〜 う〜ん、フランソワーズのレ・シルとか 綺麗だろうなあ〜
ねえ パリで踊ったこと、あるの? 」
「 ううん。 生徒の発表会があって 『 パ・ド・カトル 』 に出ただけ。 」
「 そうなんだ〜 ふうん ・・・ 定期的に舞台とか出れるのかとおもってた。 」
「 それはね、オペラ座のバレエ学校とかだけよ。 」
「 ふうん ・・・ ま チャンスだもん、頑張ろうよ〜 」
「 ええ。 ・・・ね、 いろいろ決まりとか・・・ 教えてね。 」
「 うん。 上手いモン勝ちってのはどこでも同じ。 」
「 そっか〜 それじゃ頑張るっきゃないわね。 」
朝とは逆におしゃべりに熱中し、フランソワーズがみちよと一緒に更衣室を出たのは一番後だった。
「 うわ ・・・・ お日さま 〜〜 いい気持ち♪
真冬でこんなにいいお天気なんて〜〜 キセキよねえ・・・ 」
フランソワーズは 地元駅の改札口を出ると、う〜ん・・・! と伸びをした。
稽古場のある都内も晴天の日が多いが この湘南地方はもっと陽射しが柔らかい。
冬、いや秋の後半には 陰鬱な灰色の空に覆われ、午後には早々に灯をつける ―
そんな欧州の街で生まれ育ったフランソワーズには この地域の冬は奇跡にちかい。
「 ああ・・・ いいなあ・・・ 海もね、こんなに明るいのよねえ・・・ 」
この国に、あの場所に住むようになった頃、 フランソワーズは固い表情をしていた。
あの島から脱出できたことが いまだに信じがたい。
穏やかな日々、 ごく普通の生活に戻っても、彼女の心はなかなかほぐれなかったのだ。
― 海に対しても 同じだ。
はじめ、海辺に住むのは あまり嬉しくはなかった。
忌まわしい記憶に残る海は 自分達を閉じ込め監視する檻だった。
海や空は 自分達と敵対する存在だったのだ。
しかし 今 ― 朝に夕べに目をやる海は 優しく穏やかな顔で微笑んでいる。
そんな海を見て、 太陽の光と遊んで ・・・ フランソワーズは少しづつ笑顔を取り戻していった。
「 ・・・ あ! ほら ・・・ あそこ。 光ったでしょう? お魚かしら。 」
「 え・・・ どこ? 」
「 あそこよ〜 ほら、あの大きな岩があるずっと先・・・ 」
「 え〜〜 わからないよう あ でもカモメがいるから魚かもな〜 」
「 ふうん ねえねえ お魚ってとれる? 」
「 ・・・ぼく、ピュンマじゃないよ ・・・・ 」
「 あら。 加速して獲ってこれない? 」
「 海の上、走れっていうわけ? 」
「 出来ない? 」
「 ― 出来ないよ! ぼく ・・・ イエズス様じゃないんだぜ。 」
「 まあ・・・ ジョー。 あなた、クリスチャン? 」
「 話さなかったっけ? ぼく、教会の施設で育ったんだ。 」
「 へえええ・・・・ 初めて聞いたわよ? 」
そんなお喋りから二人は次第に打ち解けはじめ ・・・ プロトタイプの仲間 から
ジョーとフランソワーズ の付き合いになっていったのだ。
ローカル線駅前のロータリーを出て、バスに乗りぐうっと海沿いに出る。
途中で降りて地元商店街に寄り 両手いっぱいの買い物をして ― 家までは徒歩だ。
「 ・・・ふう ふう ・・・ あ 〜〜 脚があ・・・・
やれやれ・・・・サイボーグにもきつい坂道ってなんなのよ〜〜 」
今日もぶつぶつ言いつつ彼女は帰路をたどる。
「 ふう ・・・ でもいい気持ち・・・ ふうん? 今日の海は色が深いわねえ・・・
なんていうのかな 瑠璃色? 」
途中で一休み、右手にひろがる穏やかな海原をながめれば気持ちも晴れ晴れとする。
「 本当にここは温かいのね。 真冬にこんな薄手のコートだけですごせるなんて・・・
あら? 風が出てきたの・・? え えええ わ きゃあ〜〜 」
ビュウーーーーー ・・・・・・・
坂の上で冬の空っ風が彼女を巻き込み ― そんなワケで彼女はスカートを脚に巻き込んだのだ。
「 ふんふんふん〜〜♪ さ〜てちょこっと晩御飯の準備、っと。
今から火に掛けておけば 美味しくなるわよね〜〜 」
手伝うよ〜 というジョーを 勉強でしょ! と自室に追いやり、彼女はキッチンにたった。
「 え〜と・・・・ ジャガイモ でしょう 人参 タマネギ セロリ〜〜 」
ハナウタなんぞを歌いつつ 彼女は野菜を剥いて鍋にいれてゆく。
「 ・・・ っと。 これでいいわね、あとはゆ〜っくりくたくた煮てゆけばぐっど♪ 」
― カチリ、と火をつけて。 彼女はほっと一息ついた。
「 美味しく煮えてね〜〜 さて・・・ わたしは音を聞いておかなくちゃ。
レ・シルの振りって 変わったのかなあ・・・ え あれ? 」
カタカタカタ ・・・・
キッチンの窓がちいさく音を立てている。
「 ? あ ・・・ これがその さっき聞いた 空っ風 かしたら・・・ 」
窓からは裏庭が見え 洗濯物が風にはためいている。
「 ふうん ・・・ ちょっとびっくりしたけど・・・ 冬に洗濯モノがパリっと乾くのは素敵♪
今晩は美味しいポトフよ、きっと皆よ〜〜〜く温まるわね。 」
青い空と煌く太陽があるのだと思えば 空っ風の音もたいして気にならなくなった。
「 あのう・・・ 『 レ・シルフィード 』 のワルツ ・・・ を希望します。 」
「 ・・・ ふうん? いいわ。 頑張りなさい ね。 」
「 はい! 」
フランソワーズはほっとした面持ちで頷いた。
「 後でリハーサル日程を張り出すから。 よくチェックしておいて。
ああ それから・・・ オペラ座版で踊る? 」
「 ・・・ はい ・・・できれば・・・ 」
「 そう。 いいでしょ、オペラ座版で ( 振りを ) 覚えてきて。 」
「 はい。 ありがとうございました。 」
「 あなたの希望なんですからね、フランソワーズ。 頑張るのよ。 」
主宰者のマダムは くく・・・っと笑った。
「 は はい! 」
・・・ よかった・・・!
オペラ座版なら何回か見たし、習ったこともあるもの。
・・・振りが変わってなければ いいなあ・・・
ほっとして更衣室に戻り 着替え始めた。
「 フランソワーズ〜〜 オッケー でた? 」
「 うん、なんとか。 さっそくDVD借りて振りを覚えなくちゃ。 」
「 戦闘開始、だわな。 アタシも頑張るよ〜 」
「 ドキドキしてきたわ〜〜 ・・・ あれ? 」
「 なに、どしたの。 」
「 うん ・・・ マダムがねえ、 <あなたの希望なんだから> って念を押したの。
なんでかなあ・・・ 」
「 さあ・・・ ま いいじゃん、ともかく希望が通ってさ。 」
「 そうよね。 頑張ろう・・・・ 」
「 それじゃ〜さ。 頑張ろう記念 で 〜 」
「 うふふ♪ お茶 してきましょ 」
「 わかってるネ♪ 」
二人はくすくす笑いつつ いつもの如く最後に更衣室を出ていった。
ギルモア邸のある地域で空っ風が吹いたのは ほんの数日だけだったようだ。
相変わらず寒い日が続き北風も吹くが フランソワーズのスカートを舞い上がらせることはなかった。
「 ふ〜んふんふんふん ・・・・ っと♪ コレが今の振りなのね・・・
ほとんど変わっていないわ。 ふんふん ・・・ 」
フランソワーズはDVDを繰り返し繰り返し、画面にかじりつき ― ほっと一息ついた。
「 40年くらいじゃ ・・・ 古典は変わらないわよね。
わたしの夢への第一歩、ですもの。 ― 頑張るわ わたし・・! 」
ふんふんふん ・・・・と曲を口ずさみステップを復習してゆく。
ギルモア邸のリビングに 空気の精 ( シルフィード ) がひらひらと舞う ・・・
― ガチャ ・・・ !
「 フランソワーズ〜〜 コーヒー、貰っても ・・・ うわ ・・・ うひゃ ・・・ 」
大きな足音と共にドアが開き ジョーがマグカップ片手に飛び込んできた。
「 あら ジョー。 いいわよ、まだ残っているわ。 」
「 ・・・ あ う うん ・・・ あ は びっくりしたぁ・・・ 」
「 あ ・・・ ごめんなさい、ちょっと復習していたのよ。 」
フランソワーズはDVDのスイッチをオフにし、ささ・・っとスカートの裾を直した。
「 ふ 復習? ・・・ いまのがその え〜と・・・・なんとかふぃーど ? 」
「 レ・シルフィード。 空気の精たち、という意味よ。 そうなの。 」
「 ふうん ・・・ なんかこう・・・アルミの薄い膜がふわふわ漂ってるみたいだった・・・ 」
「 アルミの? ・・・まあ うふふふふ ・・・ 」
ジョーの珍妙な表現に フランソワーズはころころ笑った。
「 ご ごめん ・・・ヘンなこと、言った? 」
「 ううん ううん いいのよ、ジョー。 ふわふわ漂っている風に見えて嬉しいわ。 」
「 ウン ・・・ なんかさ、こう・・・ うす〜い金属膜が ほら、なんとかいう衛星の帆みたいなやつ、
あんなのが こう 〜〜 」
ジョーは手をひらひらさせてみせた。
「 メルシ、ジョー。 この踊りはねえ、夜中に森で詩人と空気の精が踊り戯れているってシーン。
ふわふわ〜〜・・・が肝心なの。 」
「 ふうん ・・・ 無機物を踊るのかあ 面白いねえ 」
「 そう? あ コーヒーよね、 淹れ直すわ、わたしも飲みたい。 」
「 わお♪ じゃ ここはぼくが片すね。 」
ジョーはソファやらテーブルの位置を戻している。
「 ありがとう〜〜 今 美味しいの、淹れるわ♪ 」
・・・・ ん? 空気って無機物 ・・・ かしら。
違う ・・・ わよね・・・
一瞬 ジョーの言った言葉に引っ掛かりをカンジたが すぐに振り払った。
関係ないわ ・・・ 多分。
ジョーは一番身近なものに例えただけよ ・・・ きっと
― シュポ ・・・・・!
いい香りの湯気がどっと流れ出す。
「 ジョー〜〜 熱々、淹れたわよ〜〜 」
深夜のお茶タイムに 彼女はにこにこ・・・ キッチンにくる彼を待った。
「 ふう〜〜ん・・・・ いい匂い〜〜 」
パタパタ・・・キッチンに入ってくると 彼はすた・・・っとスツールに座った。
「 ・・・ん〜〜〜 ・・・と はい、 どうぞ。 」
「 ありがとうデス。 ・・・ あ ・・・ ウマ〜〜
冷えたからな〜 身体中にコーヒーが滲みてゆくよぉ〜〜 ・・・ 」
ジョーは 目をつぶってしみじみ味わっている。
「 ふふふ ・・・ あら。 冷えたって、どうしたの。 ヒーター 故障? 」
「 あ ちがうんだ。 ちょっとね・・・ ぶっ飛ばしてきたから。 」
ジョーは頭を掻き ぺろっと舌をだした。
「 ・・・ぶっ飛ばす? 車? 」
「 いや あは あのさ ― バイク。 」
「 え。 ジョーってバイクに乗るの? 」
「 うん まあ・・・ 好きなんだ、ぼく。 車とはちがった魅力があるな。 」
「 ・・・・ へえ ・・・ ああ そういえばガレージにバイク、置いてあったわねえ 」
「 あ 知ってた? ジェットが置いてったんだけど ・・・ 博士に調整してもらってね。 」
「 ふうん。 あ 免許! 持っているの? 」
「 持ってるよ〜〜 ちゃんと教習所に行ったよ。 ― ほら。 」
ジョーはごそごそライセンスを出して見せた。
「 ― わあ ・・・ 本当 ! 島村ジョー。 ちゃんと本名なのね。 」
「 当ったり前だろ・・・って ちょこっとイワンに手伝ってもらったけど。
でもちゃんと試験も受けたよ。 」
「 そう・・・それなら ・・・ いいわ。 あ〜〜 でも暴走なんかしていないでしょうね! 」
「 してませ〜ん たとえ暴走してもね、この辺り、夜はだ〜〜れもいないよ。 」
「 まあ それはそうね。 ふうん ・・・でもどうして?
通学にはバス使っているでしょ? 」
ズズズ ーーー ジョーは派手な音をたててコーヒーを啜る。
フランソワーズはちょっと眉を顰めたが ― 気にしないことにした。
そんなことを気にしていたら ムサイ男だらけの中で生活はできない。
彼女も 一口、淹れたてのコーヒーを味わい気分を変えた。
「 夜に突っ走って気分転換するの? 」
「 う〜ん それもあるけど ・・・ なんていうかな・・・風になれるんだ。 」
「 風に? でも ジョーは加速装置 ・・・ 」
「 あれはさ、メカの力だろ。 そりゃバイクもメカだけど・・・それを操るのはぼく自身だ。
このぼくの手足と五感で ― 走る。 風になってふっ飛ぶ。 」
「 へええ・・・ 」
「 なんかね、いろいろ・・・煮詰まった時なんかに 走ってくるとスカッとしてさ 」
「 解決策が浮かぶの? 」
「 いや そう都合よくは行かないな。 まあ ・・・ アタマが冷える くらいだけど。 」
「 ふうん ・・・ 風になる か。 」
「 うん。 ・・・ あ〜〜 美味しかった。 ごちそうさま。 」
さて 続きやるか〜・・・とジョーは立ち上がった。
「 あ ジョー、残りのコーヒー、よかったらポットにつめていって? 」
「 え いいの。 」
「 ええ。 わたしはもう休むから。 ジョーもあまり夜更かしはダメよ。 」
「 はいはい わかってますヨ。 じゃ おやすみ〜〜 フラン 」
「 ・・・ おやすみ ジョー ・・・ 」
にこにこ笑顔で手を振って自室に引き上げていったジョー ・・・・
・・・ おやすみなさいのキス なんて ・・・ 無理よ ね
だって わたし達 ― 家族でもないし こ 恋人でも ない・・・
たった今までジョーのいた場所が いまはぽっかり空いている。
ただそれだけのことが ― シン ・・・と心に沁みる。
ガランとしたキッチンで飲みかけのカップが どんどん冷えてゆく。
「 ・・・ さ! はやく片付けて寝ましょう! 」
― カチン 冷え込むシンクにカップが小さな音をたてた。
ガタガタ ・・・ ガタ −−−− ・・・・!
「 ・・・ ああ ここも空っ風が吹くの ね ・・・ 」
フランソワーズはタオルでゴシゴシ顔をぬぐい それまで埋めていた顔を ようやくあげた。
更衣室の窓はいつもブラインドが下りているのだが、そっと隙間を開けてみた。
「 へえ ・・・ 裏の景色って初めて見たかも 」
彼女はしばらく窓にオデコをつけて そのままの姿勢で固まっている。
「 ・・・・ 順番だけって どういうことよ。 振りはあっていたのでしょう?
ちゃんとオペラ座版で踊ったわ、わたし ・・・ 」
誰もいない更衣室の隅っこで 亜麻色の髪の乙女が窓に張り付いてぶつぶつ言っている。
「 音だって ちゃんと ・・・ 取れてたと思うわ!
振りもあっていたのに 意味、わからないわ 無機質 ってなによ ・・・! 」
ふうう ・・・・
大きな溜息と吐き、乙女は窓から離れた。
『 あのねえ。 空気の精 なのよ? わかってる? 』
『 貴方の踊りは 無機質 だわ。 』
たったさっき終わったリハーサルでもらった言葉は この二つだけ。
張り切って臨んだのに 自分自身としてはかなりよく踊ったと思ったのに・・・
じっと見ていたマダムの言葉は 二つだけだったのだ。
「 無機質 ・・・って 石とか鉄とか・・・ってこと? わたしのアームス ( 腕の動き )
そんなに硬い?? そんなにカチコチ ・・・? 」
あ ・・・・ ? 無機質 って 前にも聞いた ・・・かも?
独りで怒っていたが ふと 気持ちが冷めた。
「 そう ・・・ よ ジョー! ジョーが言ってたわ。 聞いてみよ! 」
フランソワーズは 猛然と着替えを始めた。
ヴァ −−−−−−−− ・・・!
「 〜〜〜〜〜〜 っと いいぞぉ〜〜〜 」
ジョーは陽気にグリップを握り前方を見つめた。
彼の相棒・バイクは 小石を飛ばしつつ急坂をイッキに登ってゆく。
小型なので下手すると途中でヘタレてしまうマシンなのだが 彼は巧みに操った。
「 よ〜しよし・・・ うん、お前のクセが大分わかってきたぞぉ〜〜
それじゃあ 門の前まで最後のダッシュ 〜〜〜〜 !! 」
ジョーが突撃! と意気込んだ時 ・・・
「 ・・・ん? え! あ あれええ〜〜〜 ? 」
坂の天辺に ― 見慣れた姿が 両手をぶんぶん振っているのを発見した。
「 ジョー! バイクに乗せて 〜〜 ! 」
「 え えええ 〜〜〜〜 ? 」
ジョーはびっくり仰天、いきなりブレーキを掛け ―
「 う? うわぁ〜〜〜〜〜 ・・・・! 」
ぎゅわ〜〜〜〜〜 ・・・・ ん ・・・・!
小型バイクはジョーを乗っけたままぶっ飛んだ。
「 きゃあ〜〜〜 ・・・ あら? 」
次の瞬間 バイクの乗り手はその腕力にモノを言わせ滑らかにマシンを往なし着陸した。
「 ひえ ・・・・・ 驚いたぁ ・・・ 」
「 ジョー! 大丈夫?? 」
「 あ ・・・ ああ なんとか。 フラン〜〜〜 なんだってんだよ〜〜 」
「 ごめん ・・ ねえ お願いがあるの。 」
「 ・・・ さっきの叫びかい? マジか ? 」
「 ん。 本気 ( マジ ) 」
ジョーの愛車に手をかけ フランソワーズは真面目な顔でこっくり頷いた。
「 ― それじゃ いいかい? 」
「 いいわ。 」
「 しっかり掴まってろよ! ドルフィンとはワケがちがうぜ。 」
「 りょ〜〜かい! 」
ブルンブルンブルン −−−−− ヴァ −ーー〜〜〜〜 !!!
小型バイクは二人を乗せて <発進> した。
「 ― 恐くない? 大丈夫か〜〜 フラン ッ !! 」
「 だ〜いじょ〜〜ぶ〜〜〜 ジョー!! 」
ジョーは彼女を乗せ ― ほとんど通行量もない道を疾走した。
うわ ・・・・!!! すご〜〜い すごい ・・・
この風 ・・・! こんな風、 初めて 〜〜
フランソワーズはジョーの背中にぴったり張り付きつつも 全身を弄る風を感じていた。
「 ね〜〜〜 ジョー 〜〜〜 !
風って。 たっくさん あるのねえ〜〜 」
「 なに〜〜〜? 」
「 風! いっぱいあるのね! 海風に空っ風に 春のそよ風や夏の涼風
みんな 違うのね。 ちがう風 なのよね 」
「 フラン〜 なに?? きこえないよ〜 」
くふふふふ・・・ フランソワーズは彼の背中に頬を押し付けて笑った。
「 ふふふ・・・ ジョーの背中ってあったかいのねえ 〜〜
ジョーの < 風になる > って わかった気がするわ。 」
「 え?? 風がどうかしたかい? 寒いのか? 」
「 ち が う わよ!
ねえ ジョー。 ― ちょっとだけ 耳をオフにしていてくれない? 」
「 ?? み 耳を オフ?? 」
「 そ〜〜よ〜〜 いい? 」
「 あ ・・・ う うん ・・・ 」
「 準備完了? 」
「 ― 準備完了 」
「 じゃ −−−− どうしてうまく踊れないのよ〜〜〜〜 !! 」
( ・・・ へ??? )
ジョーは自分の背中で 突如喚きだしたフランソワーズにびっくりした。
ぶっ飛ばしている最中に 聴力オフ にすることはできず、幾分感度を抑えただけだったので
彼女の叫び声は彼の耳を、いや脳を直撃した。
「 ・・・ ふ フランソワーズ?? ど どうしたんだ〜〜 」
「 いっしょけんめ やってるのに〜〜〜 !!!
か 帰りたい 帰りたいの!! 帰 り た い の〜〜〜 !!! 」
ジョーの腰に回された腕にはますます力がこもってきた。
うへ・・・ これ以上締め上げるなよ?
いっくらサイボーグだって ・・・ 頼むよ〜〜〜
「 ・・・ す 好きなのに! どうして気がついてくれないのぉ〜〜〜 !! >
( ・・・ な 何だって?! )
「 ぼ く ね ん じん〜〜〜〜!! ジョー −−−−!!! 」
( うへえ?? ぼ ぼく ぅ ??)
「 ん? あ! ≪ ジョーーー!! 前!!! 危ないッ ≫
「 うわあ〜〜〜 」
いきなり脳波通信に切り替えられ、そして特大の叫び声を喰らったので・・・
ジョーはアタマがクラクラ ・・・ 一瞬ホワイト・アウトしかけた。
が そこはさすがに最新バージョンのゼロゼロ・ナンバー・・・ 009は無事にバイクを路肩に止めた。
「 ・・・ふうう 〜〜〜〜 あ 焦ったぁ・・・・ 」
「 ジョー? 大丈夫? 」
背中から落ち着いた声が聞こえてきた。
「 ごめん ・・・ きみこそ、大丈夫かい。 」
「 ええ ジョーにしがみついていたから。 あの・・・うるさかった? 」
「 へ? ・・・・ あ あ〜〜 よくわかんなになあ〜 なにせ耳をオフにしてたから・・・
きみがなにか言っているのは 背中で感じたけど。 」
「 ・・・ やだ、解っちゃった? わたし ・・・ 」
「 で で でも なに言ってたかは・・・ う・・・よくわかんなかった 」
「 ・・・ あの ね、 いろいろ ・・・ ず〜っと思ってたこと、大声で喚いちゃった・・・ 」
「 大声で ? 」
「 うん。 ・・・ やだ ・・・わたしって最悪ね・・・ 」
「 そんなことないよ。 ぼくだって時々運転中に喚くもんな。
うん ・・・ すきっとしただろ? 」
「 え ええ ・・・ まあ ね。
で でも・・・ なんか今になって急に恥ずかしくなってきた・・・ 」
「 大丈夫。 風が ― そうさ、空気の精が持っていってくれる。 」
「 ・・・ 風がもってゆく ・・? ああ そう そうね!
風は いろいろな想いを届けてくれるし 持ち去ってもくれるわ ね 」
わたし ・・・! そんな想いを伝えたい ・・・ この踊りで!
「 そっか ・・・ うん、ちょっとわかったみたい、 わたし。 」
「 え??? なにが。 」
「 あ ・・・ あのね、 例の 『 空気の精 』 よ。
どうしてわたしの踊りが無機質なのか ちょこっとわかったかも・・・ 」
「 どうして? 」
「 うん ・・・ 風が ・・・ この風の気持ちに気がついていなかったのよ。
わたしの周りで風が吹いてなかった ・・・ そんな気がするわ。
そうね ・・・ わたし、風 になってなかったのね。 」
「 無機質 ・・・って ぼくは ものすご〜〜く軽くみえたってつもりで言ったんだけど・・・ 」
「 ありがとう! ジョー。 嬉しいわ。 」
フランソワーズは もう一回、ジョーの背中にぴたり、と身を寄せた。
・・・ うわおぅ〜〜♪♪
「 なあ ・・・ 時々うしろで叫んでも いいよ? 」
「 ・・・ え? 」
「 あは。 その時はさ ぼくも一緒に叫ぶから。 ( す ・・ 好きだって ) 」
「 まあ うふふふふふ 可笑しなジョーねえ ・・・ 」
一緒に大口あけて笑いつつも ずっと抱きついている柔らかい感触にジョーはこっそり唸る。
・・・ コレは ぼくだけのもの ・・・!
その気持ちをジョーが口に出して言えるまで どれだけ時間がかかるのだろう。
― 風が そう 風だけが知っている。
***************************** Fin.
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updated : 01,03,2012.
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************* ひと言 *************
年明けは軽く 恋人以前? いや 告前な二人・・?
このノリなら やっぱりどうしても平ゼロ設定ですね。